不正競争防止法2条1項15号 「虚偽の事実」 H28.10.27知財高裁(H27(ワ)10522,H28(ワ)636)

 提訴に関するウェブサイトでのプレスリリースについて,虚偽告知が認められた事例

事案の概要

 原告・被告ともに,リサイクルインクカートリッジを販売している会社である。
 本訴請求は,原告が被告に対し,原告商品のパッケージにある表示が周知性を有しているから,被告が原告表示に類似する表示を使用する被告商品を販売等する行為が不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当するとして差止等を請求した事案である。本訴請求は棄却された。


 反訴請求は,被告が原告に対し,原告が上記本訴請求事件を提訴したことに関して,自社のウェブサイトでプレスリリースしたことについて,虚偽告知であるから不正競争防止法2条1項15号の不正競争に該当するとして請求した差止等を事案である。反訴請求は認められた。

  

不正競争防止法2条1項15号

競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為

 

 

取り上げる争点
プレスリリースが虚偽告知に当たる場合とはどのような場合か


 本件で問題となったプレスリリース(本件掲載文)は次のとおり

 

 スカイホースジャパン株式会社に対する提訴ついて

                     株式会社エコリカ
                     代表取締役(掲載省略)

平素はエコリカリサイクルインクカートリッジをご愛顧いただきありがとうございます。
株式会社エコリカは,2015年10月22日,不正競争防止法に基づき,不正競争行為の差止めおよび損害賠償金の支払いを求めて,スカイホースジャパン株式会社(本社:(掲載省略)/代表取締役(掲載省略))を大阪地方裁判所に提訴しました。
エコリカは,平成21年6月以降,順次,エプソンのインクジェットプリンタに適合する下記のリサイクルインクカートリッジを発売し,その特徴的なパッケージのデザインと品質が全国の消費者に認知され,パッケージのデザインは,エコリカ製品を表示するものとして,周知になっていました。

エコリカ製品の画像) 

ところが,スカイホースジャパン株式会社は,平成26年頃から,全国の量販応などを通じ,上記のエコリカ製品のパッケージデザインと極めて似た下記の製品を輸入販売するようになりました。
(スカイホース製品の画像)エコリカは,本提訴前にスカイホースジャパン株式会社に対し,消費者が上記スカイホース製品をエコリカ製品と混同するおそれがあるとして,不正競争防止法に違反する旨を通告し,パッケージデザインの使用中止を要請しておりましたが,スカイホースジャパン株式会社は,エコリカの要請を受け入れず,現在も上記スカイホース製品の販売を継続しております。
本件訴訟は,小売店においてエコリカ製品のパッケージと酷似する上記スカイホース製品が現在も販売されており,ユーザーが取り違えて購入するおそれがあることから,ユーザーの利益を守ると共に,エコリカが日々受けている損害を回復するため,提訴に至ったものです。
エコリカは,これまでユーザーのニーズと環境への取り組みに配慮しながら,他社の知的財産権を侵害しないよう注意して製品の開発と販売を行って参りましたが,今後も同じような配慮を行った上で,より良くお求めやすい製品を提供していく所存ですので,引き続きご愛顧の程,宜しくお願い申し上げます。
 【会社概要】
■会社名 株式会社エコリカ
■代表者 (掲載省略)
■資本金 (掲載省略)
■創業  (掲載省略)
■所在地 (掲載省略)
■URL (掲載省略)
 【本件に関するお問い合わせ先】
事務所名(掲載省略)
担当者名:弁護士・(掲載省略)
 TEL:(掲載省略)
 Email:(掲載省略)

 

 

判決

  次のとおり述べて,プレスリリースの文章(本件掲載文)をウェブページに掲載した行為は,不正競争行為であると判断した。

 

本件掲載文の記載内容をみると,確かに原告が被告に対し不正競争防止法に基づく訴訟を提起したという事実報告が前提になっており,読み手がその留保を前提に読むことが期待される体裁になっていることは認められる。

しかし,その一方で,本件掲載文は,不正競争防止法2条1項1号の要件を充足する事実については,原告の商品の「パッケージのデザインは,エコリカ製品を表示するものとして,周知になっていました」(第3文)と,訴訟で問題にされる余地のない確定した事実であるかのように記載し,また原告の商品と被告の商品のパッケージデザインが「極めて似た」(第4文),「酷似」(第6文)であるとして「類似」より強い表現を用い,さらに「ユーザーが取り違えて購入するおそれがあることから」,原告が「日々受けている損害」(第6文)があると,ここでも断定した表現を用いている。
そして,その上,これらの記載には,本件訴訟で特定したパッケージデザインのうち類似性を判断しやすい一部写真だけを取り出し,「エコリカ製品の画像」と「スカイホース製品の画像」として対比して観察できるよう掲げ,読み手をして両商品のパッケージデザインが類似し,これにより購入者が取り違えるおそれがあることを,それ自体から感得できるようにしている。 

したがって,本件掲載文の読み手は,訴訟が提起されたばかりであるから,記載内容の事実が公的判断として確定した事実ではないことを理解しながらも,その理由として記載されている被告の商品の販売行為が不正競争防止法違反の行為であるとの事実は,裁判においても容易に認められ得る確実な事実と理解するものと認められる。

 

読み手の通常の理解を前提とすると,本件掲載文を何人もアクセス可能な原告のホームページに掲載する行為は,訴訟提起の事実とともに,被告の商品の販売行為が不正競争防止法に違反するという事実を流布するものと認めるのが相当である。 

  

考察

 純然たる価値判断の表明については不正競争行為に該当せず,虚偽事実の表明のみが不正競争行為に該当する。もっとも,純然たる価値判断の表明なのか,虚偽事実の表明なのかは微妙なものがあり,多くの判例では,価値判断の要素を含む表現であっても,これを事実に関する表明であると認定して,事実の意義を広く解している(新・注解不正競争防止法第3版763頁)。

 本件では,
「パッケージのデザインは,エコリカ製品を表示するものとして,周知になっていました」
「極めて似た」
「酷似」
「ユーザーが取り違えて購入するおそれがあることから」,
「日々受けている損害」
などの表現が虚偽事実であると認定した。

 東京地裁H26.1.30判決(東京地裁H23(ワ)38799)や知財高裁H28.2.9判決(H27(ネ)10109号)などでは,より価値判断の要素が含まれない表現であっても,虚偽事実とされており,従来の基準に沿った認定がなされたといえる。